コレクション: Ziereisen / ツィアアイゼン

「川の向こう岸に石を投げればスイス人かフランス人に当たる。」

そう話すツィアアイゼン夫妻が拠点を構えるのはドイツ南端のバーデン州のさらに最南端にある小さなエフリンゲン・キエヒェンという村です。ハンス・ペーターはとにかく一度話を始めたら止まらないロケットのような人で、地元の人が混じり会話に花が咲くと方言に変わり、全く聞き取れません。ワインを飲みながらジョークを飛ばし盛大に笑う姿は、見ているだけでこちらも笑いそうになります。

フランスとスイスの国境に接するこのバーデン州最南端の一角は「マークグレーフラーラント」と呼ばれ、昔からグートエーデル(シャスラ)とシュペートブルグンダーが栽培されてきました。この村は、シュヴァルツヴァルトとライン川に挟まれた標高約300mの土地にあり、昼間はブルゴーニュから暖かい風が吹き込み、夜はシュヴァルツヴァルトから冷たい空気が降りてきます。この二方向からの風がぶつかることで雨雲が形成され、年間降水量は約1000mm前後にまで達します。

ツィアアイゼン家は1734年以来この村で生活をしてきました。元々、家具職人として生計を立てていたハンスペーターは1991年にワイナリーを設立し、本格的なワイン造りを始めました。バーデン南部の石灰岩土壌は、大抵三畳紀の貝殻石灰質土壌ですが、ツィアアイゼンの畑はブルゴーニュと同質のジュラ紀石灰岩土壌で、この土壌がドイツ国内で見られるのは唯一この場所になります。

ハンスペーターは醸造学校で学んだことがなければ、他の醸造所で実習したこともありません。原産地呼称に拘りはなく、ワインが審査されるのを好まないため、彼のワインは全てラントヴァインでリリースされます。その一匹狼的な姿勢を慕う若手生産者はとても多いです。多くの生産者が認めるのは、ハンス・ペーターがフランスでは広く共有されている「ワインに自ら成長させる時間を与える」という視点をドイツに広めたことです。

彼のシュペートブルグンダーは若いうちは寡黙なワインが多いですが、時間の経過とともに、ハンスペーターのビジョンが徐々に現れてきます。グートエーデルに関しては、それまでのシャスラを取り巻くイメージが覆される唯一無二のスタイルです。ドイツにおけるピノ・ノワールと、スイスを含むシャスラについて語る際、忘れてはならないアイコン的生産者です。